月宮天子―がっくうてんし―
ファーストキスを待っていた愛子の唇をスルーし、海は耳元で恥ずかしそうに尋ねる。


「だから、『月宮天子』に変身したときだよ。濃いブルーだから見えないって言ったけど……そのあとは白銀だったろ? だから気になって気になって」


確かに……夜目にもクッキリハッキリ浮かび上がり……忘れたくても忘れられない。

だが、そんなことをこのシチュエーションで聞くか? と愛子は問いたいっ!


「ああ、アレね。――もちろん見えたよ。海の『粗チン』ね!」

「愛ちゃん! だから女の子がそんなこと……」

「うるさい! 粗チン男の言うことなんかゼッタイに聞かない!」

「愛ちゃん。好きだよ」

「――バカッ!」


愛子はカバンで海の頭をどつくと境内に向かって走って行った。

海は慌ててその後を追いかける。


――天空からは小さめの満月が、ふたりを優しく見下ろしていた。




                    ~fin~ 



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