月宮天子―がっくうてんし―
突如、天空から大きな影が飛来し、流火を覆った。 

バァサッ!


音と共に一陣の風が巻き起こり、境内の砂が舞い上がった。

愛子も思わず目を瞑る。そして、目を開けたときには……ホワイトタイガーの子供はどこにもいなくなっていたのだった。


「ちょっとぉ、逃がしてどうすんのよ! カイ、聞いてんの?」


愛子がブツブツ言って近づこうとした瞬間、海は胸を押さえた。仁王立ちになったまま、動きが止まり、なんと、白い煙が沸き立ったのだ。


(コレって狼警官と一緒?)


「カイッ! カイッ! しっかり」

「触るんじゃない!」


警部に引き止められ、愛子はただ見守ることしかできない。

三十秒も過ぎただろうか?

白い霧が晴れ、愛子の前に人間の姿に戻った海が立っていた。胸を押さえたまま、苦悶の表情を浮かべている。


「カイ? ねえカイ……生きてる? 心臓は動いてる?」

「あ、ああ。大丈夫だよ。愛ちゃん」

「よかっ……」


た、と抱きつこうとした瞬間、海の緑じゃない下半身を目にしたのだ。


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