部長とあたしの10日間
後藤さんが連れてきてくれた大衆居酒屋は、あたしがいつも沙織とかと利用するようなお洒落に特化した店とは違って新鮮。
酒も肴もおいしくて、その上ボリュームもあったから、営業部の男性社員がよく来るという評価も頷ける。


営業部のMVPだけあって後藤さんの話は軽快でウィットに富んでて、たまに部長のツッコミが入るのも含めて楽しい時間だった。


美味しいお酒を飲み進めてほどよく気分が良くなってきた頃。
向かいの席で部長が頬杖をついたまま黙りこんでいるのに気付いた。


「あれ、部長寝ちゃいました?」


毎日ハードワークだし、今週は出張もあったし。
余程疲れが溜まってるんだろうな、なんて一人ごちたとき。


「すみませーん。
さっきウーロンハイ頼んだら、間違ってウーロン茶が来たみたいなんですけど」


後ろのテーブルの客が声を上げた次の瞬間、頬杖のバランスを崩した部長が机に突っ伏す。


「───まさか…」


後藤さんは慌てて部長のグラスを掴んで、ほんの少し残っていた液体の匂いを嗅ぐと。


「まずい…。
叔父貴が飲んでたの、酒だ」


大きな溜め息をついた。
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