部長とあたしの10日間
「エントランスで待ってろ。
家まで送るから」


あたしが驚いて振り返ると、部長はソファの背にかけてあったスーツに腕を通しながら言った。


「車だから遠慮するな。
傘持ってないんだろ?」


なんで知ってるの?
眉をひそめかけてハッと気付く。


さっきフロアに残ってるのは一人だと思って、天気予報がはずれたことをぼやいたけど、あれを聞いてたの?
仮眠するって言ったのは、もしかしてあたしが終わるのを待っててくれたの?


「でも…」


あたしの歯切れの悪い返答に、部長は溜息をつくと、


「警戒するな。
お前に手を出す程、飢えてない」


あたしの横を通り抜けざまに、頭をポンと叩いた。


いえ、部長なら送り狼になってくれても一向に構わないんですけど。
そんなことを思いながら、あたしは部長の背中を見つめた。
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