部長とあたしの10日間
「遅いから、戸締まりに気を付けて」


部長は腕時計に目をやると、そう言って立ち去ろうとする。
22時過ぎでもう遅いって、この男はあたしをどれだけ子供扱いすれば気が済むのだろう。


そのとき、バッグの中に入れっぱなしだったハンカチを思い出して、あたしは部長のコートを掴んだ。


「あの。
これ、昨日のお詫びです。
…昨日はすみませんでした」


「ああ…」


部長はそれを受け取ると、もう一度あたしに向き直り、気まずそうにコホンと咳をする。


「こっちも無神経なこと言って悪かった」


もしかして、あの時部長のせいにしたから、少しは責任を感じてるのだろうか。
あんな八つ当たりをすんなり受け取るなんて、本当にお人好しなやつめ。


「───大丈夫です。
振られたけど、なぜかあんまり落ち込んでないみたいなんで」


むしろ部長に対象として見てもらえていない今のがよっぽどショックだなんて、口が裂けても言えない。
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