部長とあたしの10日間
そんなとき、どこからともなく声が上がった。


「部長!」


周囲の視線を辿ると、小泉部長がちょうど店に顔を出したところだった。


漆黒のコートとスーツがあんなに様になる男を、あたしは他に知らない。


以前は性根と同じ色だなんて揶揄していたけど、今は他と混じり合わないその色が彼の魅力をさらに引き出すことが分かってしまった。


「遅くなって悪い」


コートを脱ぐ部長を見ながら、この手であのネクタイを緩める日は果たして来るのだろうか、なんて考えていると。
部長は不意に振り返って、後ろにいた葛城主任に脱いだコートを手渡した。


何だ、主任もいたんだ。
…また一緒だったんだ。


当然のように部長からそれを受け取って、皺がつかないように丁寧にハンガーに掛ける。


何も言わなくても分かってる、そんな阿吽の呼吸が面白くない。
まるで今まで一緒に過ごしてきた時間の差を見せ付けられた気分だ。
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