薔薇の蕾




彼女は中学生まで、
童話の戦士のように逞しくも繊細で、凛々しく気高い異性と出会う事を夢見ていた。


しかし中学を卒業して、高校に上がる時、彼女は自分の夢を打ち消した。

それは単に
現実にはそれほど素敵な男性が居ないからではなく、

彼女は、
儚い夢は美しい夢のままで在るべきだと考えたからだ。


物心ついた時から、彼女は童話の戦士に強い憧れを抱いていた為、
周囲の人、ましてや異性なんて、目にも入らなかったし、意にも介さなかった。

そう言っても異性に免疫が無い訳でもなく、
暦は至って暢気で社交的な上、大した美人である為、多くの異性から色目を使わされて来た。

勿論当の暦本人は、そういった話題になると、とことんスルーするだけである。


その為大学生になった今でも、
暦はまだ初恋さえも経験していない。

恋と言う感覚が何なのか微妙に分からず、
男性に心が躍ったり胸がときめいたりした事は無い。


しかしそれを、暦は困ったり嘆いたりはしなかった。

何故なら、童話の戦士がいるからだ。

架空の彼は、度々暦の精神の支えになっていた。


それをよくないと評価する人も居るだろうか、彼女は構わない。




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