アンラッキーなあたし
「ねぇ…」

「ん…」

千葉の声に緊張が見え隠れしている。

「一応、一応、確認しますけど…」

もちろん、あたしの声も震えている。それはもう、生まれたての小鹿のごとく、だ。

「な、なんだよ」

隣りで千葉がごくりと息を呑む音が聞こえた。あたしは一呼吸置いて、

「あたしたち、何もないですよね?」

そう訊ねた。

途端心臓がバタフライしているようにうねった。

NOと言っておくれよ、NOと言えない日本人…。

「何もって、なんだよ?」

「だから、その…」

それを女のあたしに言わせるのか?それも処女のあたしに!

苛立ったが、あたしは覚悟を決め、

「つまり、やっちゃった、なんてことないですよね?」

思い切って訊ねた。清水の舞台から5回は飛び降りる思い切りぶりだ。自分で言って恥ずかしくなったあたしは、がばっとヒョウ柄の布団をかぶり、顔を隠した。千葉の返事を待つこと数秒、息苦しくなってもそもそと顔を出すと、千葉は、ほうけたように天井を見つめていた。
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