アンラッキーなあたし
「なあ、さくら。私を騙せるって本気で思ってたのかい?」

聞かれてあたしは力なく首を振る。

「こう見えても私はね、女優を志していた時期があったんだ。そんな私の前で、よく、あんなしょっぱい演技したもんだね」

美容師ではなかったか?と思いつつも、「すみません…」と素直に謝る。

「私の騙されたふりの演技にすっかり騙されるなんて、あんたら、本当にばかだね」

かーかっかっかっ。と、ルコ先生が水戸黄門のように笑った。完全に勝ち誇っている。

「ま、こんなこしゃくな真似をすることくらい予想しないでもなかったしね。けど、まさか、本当にやらかすとはね」

「そう、ですか」

もはや言葉も出ない。

「何より、さくらにしちゃ、できすぎた彼氏だしね」

「はぁ…」

あたしたちのやり取りを、千葉は黙ってみているだけだ。千葉も、ルコ先生が普通の婆さんでないことを実感したに違いない。

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