アンラッキーなあたし
心臓が破れてしまうんじゃないかってくらい全速力で走り、瞬のビルが見えなくなるところまで来て、ようやく息をついた。

「ここまで来れば、だ、大丈夫だろう」

千葉がぜいぜい息を切らしている。一方、あたしは、息どころか、頭の血管まで切れる寸前であった。いくら酸素を吸っても吸い足りない。足が、がくがくして、立っているのがやっとだった。

「な、なんで?ど、どうして?千葉さん、警察官に転職したんですか?」

「ばか!なんでそうなるんだよ!」

千葉の呼吸が整い始めても、あたしの呼吸は乱れたままだ。それに、裸足で走ったので足の裏が痛い。待ち行く人の視線が、あたしの足元へ注がれている。

「紹介した手前、一応、土屋のこと前の会社の知り合いに聞いたんだ。そしたら、あいつ、とっくに前の会社やめてやがった。しかも、その原因が、同僚たちに変なもん売りつけて会社にいられなくなったからだって聞いてさ。なんでも、インチキ商法にどっぷりはまっちまったらしいんだ。詐欺まがいのことをしてるって」

一息つくと千葉がここへ来た経緯を話し始めた。

「あは、あたし、飴玉みたいな指輪買わされそうになりましたよ。うっぷ…」

苦しいのを通り越して吐き気をもよおした。その場にしゃがみこんでしまったあたしの背中を千葉が「大丈夫か?」とさすってくれる。

「実際に、美顔器やら着物やら買わされたって被害者とも会った。手口が一緒だった。もてなそうな女に近づいて、その気にさせて…」

そこで千葉がはっと口をつぐんだ。

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