丹後の国のすばる星
「父上はいつお帰りですか、母上」
 病に伏した亀比売の看病をする島子に、亀比売は涙を流すばかりで答えはいつも同じだった。
「もうじき、もうじきお帰りになるわ」
「いつでしょう」
「島子や。母は疲れました、どうか休ませておくれ…」
 島子と入れ替わるように、あずみは亀比売の枕元に座り、比売の手を握った。
「あずみ…」
 高熱にうなされているのか赤ら顔で亀比売はささやいた。
「時間…時間がありません。このままだと島子までが朝廷の手にかかってしまいます。どうか皇子さまと、力をあわせて島子を守って…」
「どうすればいいの? どうすれば島子さん助かるの」
 あずみは必死で尋ねていた。
「あの子の父は温羅という一族の疑念を抱かれ処刑されました。ですからその疑念さえ払拭されれば…しかし温羅とて、ただの豪族です。悪いことなどなにもしていないと聞き及びます…わたしは朝廷が嫌いです…」
「亀比売さま」
 あずみは言葉をつまらせ、瞼を赤く腫らしていた。亀比売はあずみの手を握り、最期の言葉を振り絞る。
「お願いです、わたしの無念を晴らしてください…いいえ、無念でなく島子を助けて。わたしはどんなに汚いことをされても、人間を憎みたくないのです…」    
 亀比売は休みたいからといって、あずみを下がらせた。
 
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