丹後の国のすばる星
すばる星
 あずみは島子の家で滞在することになった。
 亀はというと、あのあと目を覚ましあわてて亀比売の神殿まで戻っていってしまった。
「島子さん、あずみさんをよろしくお願いしますねぇ。あずみさんはこの時代の子じゃないんです、わたしが無理やり先の時代から連れてきてしまったのですよ」
「先の時代…?」
 島子は何のことかわからないといった表情で小首を傾げている。
「亀さんもういいから、ありがと」
 亀を強引に海へ帰してから、あずみは島子に誤魔化すような笑いを向けていた。
 空はすっかり茜がさして、美しい蜜柑色をかもし出す。
「日が暮れたなぁ。『あかねさす 日の暮れゆけば すべをなみ ちたび嘆きて 恋ひつつぞをる』てね。そろそろ夕飯つくろう。あずみ魚は好き?」
「ものにもよるんだけど…ふだん、あんまり食べないから」
「そっか。じゃあ、手を加えたものでもこしらえてみよう。気に入ってもらえるように作ってあげるからね」
 先ほどの歌のように微笑む島子の頬にもまた、あかねがさしている。
「さっきの歌いい響きね。どういう意味なの」
 島子はあずみの問いには答えず、照れ隠しなのか、手のひらで顔をこすっていた。
「日が暮れてさみしくなると、どうすることもできずにため息ばかりが幾度も出て、きみを想ってしまう。そういう意味だよ…」  
 島子は聞こえぬようにひっそりと、あずみへの想いを吐露していたのだった。
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