月夜の桜
**。




ざぁっと、心地よい風があたりに吹きわたった。





先ほどまでは確か蕾すらつけていなかった桜は、今や満開に咲き誇り夜空へと舞い上がる。





桜の黒々とした美しい髪が風に遊ばれ、何故かぼんやりと夜空を眺めていた彼女はそのことではっと我に返りあたりを見回した。






深い闇が帳をおろし、月明かりだけが頼りの静かな真夜中。





――……いつの間に外に出ていたのだろう。




桜は微かに首をかしげ、満開の桜を見るや否やに嗚呼これは夢か、と納得して頷いた。





時々あるのだ。夢を夢だと認識することが。





ふぅと目を伏せてため息をつくと、彼女はゆっくりと目を開ける。





こういう時は大抵誰かが出てくるのだ。それも、どうしてか桜の見知らぬ者たちばかりが。





さて、今日は誰が出てくるのかな、とあたりを見回すと一際強い風が吹いた。





単しか纏っていない桜は思わず自分を抱きしめて、あまりの冷たさに身をすくませる。





部屋に戻って何か取ってこようかと一瞬思ったが、やめた。





夢なのだから風邪などこじらせる訳もないし、何より部屋に戻るのが面倒だ。





どうせ会う人に会えば夢など覚めるので、どうせならこの美しい夜桜をもう少し見ていたい。





彼女は、自分と同じ桜の花が大好きだった。





ほんのひと時の間、美しく咲き誇り人々を魅了し、あっという間に散って行く。




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