Z 0 0 Ⅱ

「茅野、ブーツのサイズ、それでよかったか」
「大丈夫です」


茅野はその場で数回足踏みをして言った。
いつもの長靴とは違う、重く硬いワークブーツが、がつがつと足音を立てる。


「ちょっと動きにくいけど、我慢しろよ」
「平気です。けど、熱帯ゾーンって、こんな重装備が必要なところなんですか」
「まあ……ほとんど虫対策みたいなもんだよ」


身体中から漂う柑橘の香りが、鼻の奥を擽る。
熱帯ゾーンに行くならこれがなきゃ、と言って、事務所を出る時にたっぷりとカローラに振りかけられたのだ。
虫が嫌う木の実の果汁で作った、虫除け用の香水らしい。
ラビも全身から同じ匂いをさせている。
おかげでここへ来る途中のクルマの中は、青臭い果物の匂いでむせ返るようだった。

樹のゾーンの南側、いつもピーキーの世話をしに来るのとは反対の端に、二人は立っている。
途中まではピーキーもクルマに並んで飛んでいたのだが、樹からあまり離れたくないのか、いつの間にか姿を消していた。

ラビはグレーのキャスケット、茅野はボルドーのニット帽を被っている。
耳まで隠れる覆いが両側についていて、頭のてっぺんでは緑色のポンポンが揺れていた。
もちろんというかなんというか、ラビに借りたものだ。
出掛けの茅野の姿を見た三津が、野菜みたいねえと言っていた。

ツナギのファスナーをきっちり首元まで上げ、裾もブーツに仕舞い込んで、ラビに手渡された軍手を嵌める。
身支度を整えた茅野は、拓けた景色を見渡した。

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