Z 0 0 Ⅱ

「え、アリクイがこっちで……アリがあっち?」


あっち、と指差した動物は、もうナマケモノの膝までよじ登っていた。
ナマケモノは上機嫌に「うーん」と唸って、指先でアリを慎重につついている。

“アリクイ”は、地面をうろうろと探し物でもするように歩き回っていた。
真っ黒い体に赤い縦線が入っていて、まるで毒グモみたいだ。

アリクイといえば、アリを食べるからアリクイ、という名前になったはずである。
茅野は、さっきラビが言った言葉の意味に気付いて、サングラスをかけ直して立ち上がった。


「アリクイ、まさか、アリ食べるんですか」
「ああ、肉ならなんでも狙うよ。集団で襲いかかって、三日も経てば骨と毛皮しか残らない」
「な、なんでそんな危ないのがいるんですか」
「さあ、知らないうちにいた。不思議とアリが好物らしくてな、他の生き物はあんまり襲われないから、そんなに問題ない。まあ、こいつには大きすぎて手出しできないから」


そう言ってラビは、ナマケモノを視線で示す。


「ナマケモノと仲の良いこのアリだけは、生き残ってる」


それは、他のアリはすでにアリクイに滅ぼされたということだろうか。

アリはナマケモノの影からそろそろとこちらを窺っていたが、ラビと茅野の視線が向くと、ぱっと隠れてしまった。
ずいぶん臆病な性格らしい。


「奥に進もうか」と言うラビについて、二頭に背中を向ける。
途中振り返ると、ナマケモノはゆるゆると手を振っていたが、アリはやはり、ナマケモノの背中に隠れてこちらを窺い見るだけだった。

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