K・K・K
憂鬱
それから数日を香は、気の抜けた炭酸みたな気持ちで過ごした。

男性はあれから、香に話しかけてくる事はなかった。
ただいつもの様に、ピアノに一番近いテーブル席を陣取って、ブランデーを楽しんでいた。



****************
月曜日。


香は高校を早退して、母の車に乗り、湘南まで来ていた。
春の湘南はほんのり肌寒かった。


通りの向こうの喫茶店に父の車が止まっていた。
父は窓側の席に座って、私たちに気がつくと二度大きく手を振った。



「いらっしゃいませ~ぇ。」
甲高い声の店員が業務用スマイルで出迎えてくれた。

母と私は、父の待つテーブルに行き、向いの席についた。


「ご注文お決まりになりましたらお呼びさ~ぁい。」
甲高い声の定店員は3メートル位離れた所で振り返り、こちらを伺っていた。


「あ、すみません。」
母はその店員を呼んだ。

「コーヒーと、、、、。あなた何にする?」
母は香に聞いた。

香はオレンジジュースを指差した。


「かしこまりましたぁ。コーヒーとオレンジジュースですね!少々お待ち下さ~ぁい。」


甲高い声の店員は店の奥に入っていった。

(フゥ~。)「はぁ。」

無言の重圧だ。



「久しぶりね。」
母は呟いた。
「あぁ。」
父は窓の外の海を見ている。

「あなた、少し痩せたわね。」
母は、感情を出さない様にしているみたいだった。
声の調子がいつもと違う。


「君は相変わらず忙しいのかい?」
父は話を逸らす様に言った。

「えぇ。おかげさまで。」
他人行儀な言い方だ。




「もう一年も経つのね。」



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