K・K・K
桜ケ丘公園
香が学校をサボるのはこれが初めてではなかった。

入学当初は、当然のように皆が話しかけてきたし、
香がしゃべれないと知っても、
仲間に入れようとしてくる子もいた。

しかし、‘しゃべれない’と言う壁が、
いつしか香の前に立ちはだかる様になった。
皆がフェイドアウトしていく様を、
香は無表情で見送った。



中学生の頃の香は活発で、クラスでも人気の女子の一人だった。
スポーツも得意だったし、
何より長身でモデルみたいなスタイルに、長いまつげと大きな目、
色白の肌は、学校だけではなく、
近所でも評判の美少女だった。


そのせいもあって、高校に入学した当初は男子が黙っているはずもなく、
当然、香の傍で目立ちたいと言う女子もみんなが、香に声をかけてきた。


香はそのすべてをウザく感じていた。

だから、皆が‘しゃべれない’と知って離れていっても、
決して追うことはなかった。


(がずがいれば大丈夫。)
香は胸に手をあてて、いつもそうささやいた。
                    ・・・・・

****************

さっき買ったばかりのネックレスをかけて、
香はバイトまでの時間をどう潰すか考えていた。
カフェでのんびりランチなんかも採ったし、
本屋で立ち読みもした。

さすがに映画は一人で入る勇気はない。


ここの映画館はよくかずと来たから。



香は午後6時から夜10時までの間、
家の近くのお洒落なバーで、
ピアノを弾くバイトをしていた。

‘しゃべれ’なくても、ピアノは弾けたから、
マスターに認められて雇ってもらう事ができたのだ。

3歳から習っていたピアノは、
コンクールには出ていなかったけど、
なかなかの腕前だった。

そして、その華奢な指先から迸る音色は、なんとも人の心に響いた。


香はバイト先の近くの公園で、それまでの時間を過ごす事にした。

公園は桜が満開で、「今が見頃」と桜が言っているようだった。

そこにある小さなブランコに腰をかけて、
ゆっくり、かばんを鍵盤にして、
今日弾く予定の曲を目をとじながら頭に流した。
























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