ライラックをあなたに…


どうしていいのか分からず、ギュッと目を瞑っていると、身体を抱き締める腕がゆっくりと離れてゆく。

そして、これ以上無いほどに緊迫した空気の中。


「寿々は………どうしたいの?」



自然と絡まる視線。

一颯くんの表情は至って真剣だ。


ただ見据えているだけの彼の視線が、とても熱く感じるのは気のせいだろうか?


すぐ横では、そんな私達を見つめている彼が呆然と立っている。


ここで勇気を出さずして、いつ出すの?

けじめをつけるべき時が今なんだと、自分に言い聞かせ息を吸い込む。


そして、ありったけの勇気を振り絞り、私は口を開いた。



「一颯くん、ありがとう」


必死に笑顔を作って見せると、彼は目で『大丈夫?』と問いかけて来た。

だから私もニコッと微笑み、『大丈夫だよ』と彼に応える。


そして………。


ゆっくりと身体の向きを変え、唇を噛み締めている彼に私は気持ちを素直に伝えた。



「私達、もう違う道を歩み始めてる。彼が言うように、私、命を絶とうとしたの。……現実から逃げたくて」


そう言いながら、私は手首の傷痕を彼に見せた。


「貴方が知ってる『国末寿々』は、あの日に死んだの。もうこの世にはいない。ここにいるのは、貴方が知ってる『国末寿々』じゃないの。私はもう………貴方の元へは帰らないわ」


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