ライラックをあなたに…


「んッ?!」

「俺、…………マジで焦った」


突然、背後からふわりと抱きしめられた。


「一颯……くん?」


私の肩に頭を乗せ、溜息を零す彼。

さっきまでの勢いはどこへやら。


一体何に焦ったのか良く分からないけど、彼が今、安堵しているという事だけは良く分かる。


「本当にごめんね?それに、ありがとう」


彼の腕を振り払う事無く、私は謝罪とお礼の言葉を口にする。


だって、思い返しても震えが出そうな程、恐怖でしかなかった。

一颯くんがいてくれて、本当に助かった。


それにあんな風に言って貰えて、本当に嬉しかった。

普段の彼からは想像がつかないほどちょっと怖かったけど、でも、彼の気持ちは十分伝わったから。


抱き締める彼の腕にそっと手を添え、ありがとうと何度も呟く。

すると―――――、


「寿々さん、ごめん」

「…………へっ?」


突然私の手を掴んだ彼は、店内へと歩き出した。

そして、


「大将、すみません!ちょっと30分だけ抜けて来ます!!」

「おぉっ?!」

「あら、どうしたんだい?」

「ホント、すみません!寿々さんを自宅に送って来ます!!」


そう口にした彼は堂々と店の入り口から私を連れだした。


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