ライラックをあなたに…


お店を1歩出ると、背筋から凍りそうなほど空気が冷たく感じた。


待ちゆく人々は暖かいコートを羽織っている。

勿論、私も厚手のコートを羽織っているが、………何とも言えないような寒さを感じる。


恋人ではないけど、何度も逢ううちに情が湧いていたのかな?

彼ときっぱり縁を切った今、無性に心が淋しいと訴えている気がする。



バッグからマフラーを取り出し首に巻きつける。

実はこのマフラー、一颯くんの私物。

洋和室のクローゼットから冬布団を出そうとして見つけたものだった。


口元から漏れ出す白い息。

それを遮るように口元を覆うと、微かに一颯くんの匂いがした。



一颯くん、いつ頃帰ってくるんだろう?


今にも雪が降り出しそうなどんよりとした空を見上げ、不意にまた彼の事を思い出していた。





今日は女将さんのお兄さんが古希を迎えられ、大将と女将さんは隣県のお兄さん宅へお祝いに。

店は臨時休業となっている。




バイトが無い私は、ふらりふらりとショップ巡りを始めた。


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