ライラックをあなたに…


「……ホントにごめんな?……幸せにしてやると約束したのに。俺が結婚しても会社で逢えるし、困った事があれば、いつでも相談に乗るから…」

「ッ?!」


俺は一瞬にして、謎だらけのパズルがピタッと嵌った気がした。


「寿々?」


電話越しの男の声にムカッとして、俺は無意識に電話を切った。



『寿々』というこの女性が、先程の『侑弥』という男性と恋人関係にあった事は容易に理解出来る。

そして、2人は結婚を約束した仲で、どういった経緯かは分からないが、男は別の女性と結婚する事となり、彼女を捨てた。


そして、彼女はその悲しみや苦しみから逃れる為に『死』を選んだのだろう。


バイト先の居酒屋で涙を零しながら酒を口にする姿と、思い詰めた表情で身投げをしようとした彼女の姿。


繋がらなかった線が1本の線となって、赤の他人の俺でさえ苛立ちを覚えた。



理由が何であれ、『死』を選択しなければならない程追いつめられたのは確かで……。


無意識に助けてしまったが、この先、俺はどうしたらいいのだろうか。




ため息交じりにハーブティーを淹れていると、浴室から彼女が姿を現した。


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