心さん、そろそろ俺にしませんか?



こうやって名前を呼んだら、いつもは振り返って笑ってくれた。だけど今は、振り返ってもくれない。


「心さん」


心さんは、唇を噛みしめて目に涙を溜めていた。まるで、小さい子どもが痛みを我慢しているようだ。


「……心さんっ」


俺は見ていられなくて、心さんを背後から抱きしめた。今はもう、恥なんて関係ない。心さんにも嫌われたって構わない。


もう、俺も限界なんです。


「原田ぁ……あたし、振られちゃった」


心さんの肩が小さく震える。


「恋愛対象じゃないって。……好きな人が、いるんだってさ」


俺はさらに心さんを強く抱きしめる。強く、強く、壊れてしまわぬように。


「心さん、頑張りましたよ」


「……分かってたんだけど、な。正直……2度目はキツいな」


「心さん……」


「っく……悔しいよー……」


心さんの痛みが涙となってこぼれる。俺はそれをすくい上げることも出来ず、ただ心さんが崩れないように抱きしめるだけだった。


どれだけ、辛かったんだろう。


どれだけ、泣きたかったんだろう。



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