贖銅(ぞくどう)の刑
一度たりとも、楽しそうな顔をしていた事はなかった。

それは、イジメられている自分をかばいつつ、女手一つで
(よほどの事がない限り、お金に困り生活に窮していたとしても、実家に無心〔お金をねだる事〕さえ不思議としなかった)
不遇な自分の娘を育てている母親の疲れ切った姿、と言うものとも、何か異質のものだった。

とにかく、母親の祐子は、ここに戻ってきた時はいつも、真っ先に自分をおじいさんに預けた。

その間、祐子は居間でおばあさんと何か難しい話をしていて、時折おばあさんが祐子の事を抱き締めたり頭をなでたりして慰めている光景を見かけていた。

夜寝る時は、和室で自分をはさむようにして、左におじいさん、右におばあさんが休み、祐子は常にこの部屋で独り、眠りについていた。

夜中におばあさんに連れられてトイレへ向かう時も、通り道であるこの祐子の部屋からすすり泣く声が漏れてきて、祐子のものと分かりながら、まるで幽霊にでも出くわしたかのような不安と恐怖をよく覚えた。

「…そうよ、よくよく考えたら、私の家、何かがおかしい。

でも、それにしてもお母さん、独りこの部屋で一体、何に対してそんなに悲しんで…」
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