抹茶モンブラン
 すると、鮎川は笑って僕の肩を叩いた。

「隣の芝は青く見えるって本当だな。俺は堤が羨ましいと思ってる。マイペースで自分のやりたい道を譲らずに生きる強い意志を持ってるだろう」

(鮎川が僕を羨ましいと思ってる……?)

「何ていうか……幸運の神様がついてるんじゃないかなって気がするんだ。仕事でもプライベートでも、将来きっとお前は幸せになるだろうって感じさせられる」

 思いもよらない言葉だった。
 自分が運がいいなんて思った事もないし、将来が明るいとも思えなかった。
 でも、鮎川はこの会話をした数ヵ月後に突然の事故で亡くなった。

 彼の位牌を前に、僕は彼が何よりも大切にしていた妹、紗枝の事を考えていた。
 何度か3人で食事をしたこともあり、僕のとっつきにくい性格にもかかわらず、紗枝はすぐになじんでくれた。
 そんな彼女が悲しみのあまり涙も出せずに正座したまま動かない。

「お兄ちゃんもいなくなっちゃった……どうしよう」

 二人の母親が病気で亡くなったのも、つい1年前の事だった。
 その当時まだ短大生だった紗枝にとって、この現実を受け入れるのは容易でないのは明らかだった。誰か彼女をバックアップしてやれる人間はいないのか……?
 葬式の間中ずっと観察していたけれど、紗枝をお願いできそうな頼りになる人間は見当たらなかった。
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