抹茶モンブラン
 もっと早く紗枝の気持ちに気付いていれば。
 事故に合う前の彼女になら、もう少し違う言葉を言えただろう。
 もっと違う道を見せてやれただろう。
 そして、僕以外にも男がいるという事を教えてやれたのに……。

 立つ事もままならない彼女に、今かけてあげられるべき言葉が見つからない。

 僕がつらいのと同じか……それ以上に鈴音が苦しい思いをしているのを考えると、胸が痛い。

 優し過ぎるっていうのは、結局誰かを徹底的に傷つけるという事と一緒だ。
 僕が紗枝に対して見せている優しさも、本当は彼女を深く傷つけているのと一緒なんだろうか。

 結局今夜も12時までコーヒーショップでボーっと過ごしてしまった。
 一瞬呼吸が止まるかと思うほど冷たい夜風に当たって、思わず体を縮める。
 白い息が、夜の景色に消えていく。

 鈴音……苦しめてごめん。
 紗枝……君の心に答えてあげられなくてごめん。

 たくさんのゴメンを抱え、僕はノロノロした足どりで駅への道を歩いた。
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