抹茶モンブラン
「さて……」

 今は何時くらいかな……と思い、半分まで飲んだコーヒーを置いて時計を見た。
 すると、紗枝が急に悲鳴に近い声を上げた。

「見ないで!」
「……紗枝?」

 紗枝は両手を組み合わせ、それを口元にぎゅっと押し付けて今にも泣きそうな顔をしている。

「時計見ないで……私との時間が退屈みたいに見えてしまう。もっと一緒にいて、ずっと一緒にいて。帰らないで!」

 泣き叫ぶように、紗枝はそう言って僕にしがみついた。

「紗枝……」
「嫌、私の事ずっと支えてくれるって言ってくれたでしょう?堤さん無しでは生きられないの」

 子供のように泣いてすがる紗枝を抱きしめて、僕は彼女の恐怖心が治まるのを待った。
 彼女のパニックぶりは、鈴音が別の男に行ってしまいそうだと僕が感じた時と似ていた。
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