【B】星のない夜 ~戻らない恋~

睦樹さんを通して、私よりも怜皇さんの方が心【しずか】の病気のことを詳しく理解してた。

心【しずか】の癌が、そんなところまで進行してたなんて知らなかった。

そんな素振りも見せないで、
紀天に笑顔を向けながらどんな時も過ごしていたから。


それを知ってたから、
怜皇さんは……心【しずか】の傍に居させてくれたの?


ゆっくりと最後のお別れに向けて覚悟が出来るように。


大切に日々を過ごせるように。


「……怜皇さん……」


「咲空良、彼女が告げた想いを受け止めてやれるのは君だと思う。

 睦樹だって、癌治療で弱っていく彼女を一人で見守り続けるのは辛いだろう。

 それに所詮、男は男だよ。
 女同士の疎通とは出来ることも変わってくる。

 だからこそ、睦樹は君を頼りにしているんだろう。
 大切なお友達の為に今は精一杯、咲空良も時間を使うといい」



その日、別々に自宅に戻って週末を過ごし、
翌週からは、華京院グループが経営している総合病院へと心【しずか】は再び入院した。


そこで子宮の摘出手術をして、僅かな延命に望みをかけて抗がん剤治療を始めた。



そんな心【しずか】の姿を、紀天にも見守っていてほしくて
私は毎日のように病室を訪ねた。


抗がん剤のクールが終わって、少し体調が落ち着いた心【しずか】が、
病室のベッドで体を起こす。


「……心【しずか】」

「大丈夫、私は大丈夫よ……。

 紀天もいるもの……それに睦樹さんも咲空良も居てくれる。

 それより手伝って欲しいことがあるの。
 私、紀天のお母さんで居たい……」




お母さんで居たい?


そんなの決まってるよ。


心【しずか】は何時まで経っても何処でも、紀天のお母さんじゃない。


どうしてそんなこと言うの?
紡がれるはずの言葉に不安ばかりが増していく。




「お願い……聞いて……咲空良。

 私の最後の我儘なの。
 どれだけ時間が過ぎても私は紀天のお母さんよ。

 声に出して言えるものなら、何度でも何度でも言い続けるわよ。

 でも私には時間がないの。弱っていくのがわかるの。

 何時か……紀天を抱きとめることが出来なくなるのがわかるの。

 今までの普通が一瞬のうちになくなる日が来るの。
 星がなくなる日が。

 だからね……今の間にこの先の未来の分までお母さんで居たいの。
 紀天が寂しくなくて済むように」


肺転移が原因の咳を何度も何度も切り替えし
途切れ途切れに紡がれた悲痛なまでの心【しずか】の想い。


心【しずか】の腕の中で手を伸ばしながら天使の笑顔を見せる紀天。


その直後、心【しずか】の健康状態の異常を告げる
アラームが病室内に木霊する。
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