【B】星のない夜 ~戻らない恋~


「いえ、怜皇からは聞いています」




怜皇なんて呼び捨てしたことないのに、
何故か、自分のものなのだと主張したくて呼び捨てしてしまう私。


怜皇さんの女性関係が気になっているから不安で電話かけたなんてばれたくない。



「それでは、都城【みやしろ】様はどのようなご用件で電話を?」


「移動中なのか、怜皇の携帯も東堂さんの携帯も留守番電話で伝わらなかったの。
 今日の夜、ディナーの約束をしてるんだけど待ち合わせ場所を寝ぼけてて忘れてしまって。

 彼が最後に商談する料亭は何処だったかしら?」


そんな約束なんてない。


だけど……かまをかけるように口から出まかせでさぐりを入れる。



「少々お待ちください」


宮野さんの声が遠ざかり手帳をめくる音が伝わる。


「お待たせいたしました。
 
 瑠璃垣は、赤坂の料亭 羽山【はやま】での会食を予定しています」

「宮野さんでしたわね。
 どうも有難う」



そう言いながら電話をゆっくりと切る。


その後の行動は早かった。


ベッドから起きだしてシャワーを浴びると、
お気に入りの下着をつけて髪型をセットする。


鏡の前で、念入りにメイクを施して
怜皇さんからプレゼントされたワンピースに袖を通した。



自室を出た私の姿に知可子さんが慌てて駆け寄ってくる。



「咲空良さま、お出かけでしょうか?」



心【しずか】の旅立ちから、
廣瀬家に出掛ける以外は塞ぎがちだった私を
使用人たちも心配してくれていたみたいだった。



「皆には心配をかけましたね。
 
 怜皇さんから連絡を頂きました。
 赤坂まで出掛けたいのです。

 車を手配いただけますか?」



にっこりと笑って、知可子さんに告げる。



知可子さんは深々とお辞儀をすると花楓【かえで】さんには、
車が到着するまで私のハンドバッグを持つように指示をする。


最初はあんなに窮屈だった、
この家での暮らしも随分と馴染むことが出来た。


それは……怜皇さんの存在が、
私に近しいものになって来てるから。



暫くすると、車をまわしてきた
運転手の元浦【もとうら】がゆっくりと姿を見せて
お辞儀をする。

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