【B】星のない夜 ~戻らない恋~

だから人間関係がうまく取れなくなった?


最初から葵桜秋に仕組まれてたってこと?



その後、家族会議で話し合われて両親が出した結論は、
父の会社で働く従業員を守るための苦肉の選択。


葵桜秋が、咲空良の名前をこの先の未来永遠に語って生きていくこと。
それは同時に、私も葵桜秋と呼ばれて生きていく世界。




明るく広がっていくと思えた未来が
一瞬にして崩れ去った朝。


もうすぐ挙式だと優しい声でいってくれた
怜皇さんが遠ざかっていく。


私はそのまま崩れ落ちるように意識を失った。

気が付いた時には、葵桜秋が過ごしていたはずのベッドで
眠らされていた。


体を起こして、一階へと顔を見せる。
喉がカラカラで、引っかかるみたいで気持ち悪かった。





「まぁ、起きたの。
 さっ、葵桜秋」



咲空良と言いかけたのを
慌てて葵桜秋に言いなおすお母さん。


「あれ、葵桜秋は?」


小さく呟いた声にお母さんは今の現実を告げた。


「葵桜秋はアナタでしょう?
 咲空良は先ほど帰ったわ。

 あの後、お父様は瑠璃垣家へ真実を話しにお邪魔して、
 お詫びして。

 瑠璃垣さまも九州から調整をつけて帰ってこられて
 話し合われたみたいよ」


目が覚めたら全てが終わった後。

これが夢なら、どれだけいいんだろう。


葵桜秋が咲空良として瑠璃垣の家に入ってしまった。

もう手の届かない、あの場所に入ってしまった。


ならば……私は葵桜秋として明日、
あの子の職場に出社すれば怜皇さんに逢えるの。




そんなことを思いながら、リビングで立っていると
玄関のドアが開く音が聞こえる。




「あらっ、お帰りなさい。貴方。
 瑠璃垣様は?」

「先方は大層お怒りだったが今のままで。
 八月には、両家の結婚式をする予定になったよ。

 母さんもそのつもりで。

 そしてお前は暫く家に居なさい。
 葵桜秋が借りていたマンションも解約した。

 そして瑠璃垣の会社にも退職願を出して先ほど会長に受理して貰った」 





お父様の言葉は残酷な暗闇へと突き落とす。




八方塞がり。



どうすることも出来なくった私は、
実家に閉じ込められるように監視される。




葵桜秋の部屋に戻って、ベッドに突っ伏すと、
悔し涙に、唇を噛みしめる。



得意げに悪魔の笑みを浮かべる葵桜秋の姿が、
やけに脳裏を刺激してカッカさせていく。


怒りの感情と、悔しさと悲しさ。
もう取り戻せない時間。


そんな感情が渦巻いて私を深く突き落としていく。




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