【B】星のない夜 ~戻らない恋~

7.全てを受け止めて -咲空良-


「紀天、ほらっ、車が来てるよ。
 危ないから気をつけなさい」


忙しなく家の周りを走り回る紀天に声をかけながら、
私は少しずつ大きくなっているのを感じるお腹へとそっと手をあてながら
玄関の庭先にあるベンチへと腰を掛けた。


季節は12月になったばかり。



お彼岸の墓参り。


そこで私は、心【しずか】の墓参りに来ていた
睦樹さんと紀天と出逢った。


怜皇さんの子供を妊娠しているかもしれない突然の現実に
一人悩み続けていた私を自宅へと招き入れてくれた睦樹さん。


都城の家には連絡して、一晩、外泊をさせて貰うことになったその夜
紀天が寝静まった廣瀬家のリビングで、
私がこの家で暮らすきっかけになったことを睦樹さんは告げた。



*


「咲空良さん、少しいいかな?」


暗闇に聞こえた睦樹さんの声。


「紀天は?」

「今眠ったよ。
 今日は沢山歩いたから疲れたみたいだね」


そう言いながら睦樹さんは、心【しずか】の写真が飾られた
仏壇の方へと移動して、仏壇に灯りをいれてゆっくりと手をあわす。


私もそれにつられるように、そっと手を合わせる。


手を合わせた後、お互いに仏壇の前で向き直った私に
睦樹さんが口を開く。



「咲空良さん、妊娠してるよね」



妊娠?
告げられた言葉にただ頷く。

頷くと同時に溢れだした涙は止まらない。


「怜皇の子供だよね……アイツは知ってるの?」



全ての問いかけに私はただ何も言えず首を横に振るばかり。



お腹の中の子は、紛れもなく怜皇さんの子供。
それはわかっていても怜皇さんは人妻。


もう都城咲空良として生きる葵桜秋のパートナー。


そして今の私は……都城葵桜秋。


そんな私が産んだら世間体にも問題になるし、
お腹の中の子は決して祝福されることのない
瑠璃垣の忌子になってしまう。



そんな不幸な未来だけは背負わせたくない。

だけど……せっかく授かった愛しい人の血を継ぐ命。
堕ろすなんてことは考えたくない。


押し迫る現実問題に身動きが取れず、
ただ黙って俯くことしか出来なかった。



「大丈夫、本当のことを話して。

 俺が守ってあげるよ。
 君の全てを受け止めて」




睦樹さんの声が優しかった。



ふと、見つめた仏壇。



涙で滲んだ世界は優しい光が降り注ぐようで……。


時折、激しくゆらめく蝋燭の灯りは心【しずか】が
私の背中を押してくれるようで。



全てを吐き出すように紡ぎだした。


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