【B】星のない夜 ~戻らない恋~

12.一族の罪 奪った子供 -怜皇-


咲空良を名乗る葵桜秋が伊吹を出産し
葵桜秋を名乗る咲空良が尊夜を出産、
そして咲空良自身の体調が少しずつ回復始めた頃、
葵桜秋は随分と柔らかい表情を見せるようになった。


俺自身もあの日、咲空良と睦樹に話を切り出した通り、
今は伊吹も生まれたのだから、この先は咲空良として存在し続ける
妹の葵桜秋をゆっくりともう一度愛していこうと思った。


俺が愛し続けた咲空良は、
もう……睦樹のパートナーとしての一歩を歩き出した。


俺と咲空良の子供は俺と咲空良と子供としてでなく、
睦樹と葵桜秋として過ごし続ける咲空良の子供として、
俺の元を離れていく。




だけど……少し時間をおいて考えてみれば、
この方が良かったのではないかと思えてくる。


二人の子供が同時に俺のところに来てしまったら、
やはり俺は、伊吹よりも……志皇【しおん】を愛していたかもしれないと
今は思ってしまうから。

そしてそんな現実が起きてしまうと葵桜秋が心を乱し、
志皇に冷たく当たっていただろう。


だから……あの子の幸せの為にも、瑠璃垣志皇ではなく、
廣瀬尊夜として愛される家族の元で幸せに育つ方がいいのだと
俺自身にも言い聞かせた。



仕事の合間、病院に顔を出しながらNICE【Neonatal Intensive Care Unit】へと顔を出す。


新生児の集中治療室として存在するNICE。
名を告げてガウンを羽織、保育器で眠る伊吹の元を訪ねる。


まだ小さな体に点滴や機械を沢山繋げられながらも、
必死に生きようとしている我が子。


「お父さんが来てくれて、伊吹君も喜ぶと思います。
 どうぞ、ここの中から伊吹君の手に触れてあげてください」



そう言って主治医は、保育器のドアを開けて
俺の手を伊吹の腕へと誘導する。


伊吹の体温が伝わって俺は、じっくりと伊吹に触れながら
我が子を見つめた。

ふと、ギュっと握りしめて笑ったように表情を浮かべる伊吹。



その笑顔を見た途端、今は目の前にいるコイツを守っていきたいと
心から思えた。



偶然か、必然か……伊吹の隣には同じように保育器に入って、
点滴や機械に繋がれた廣瀬尊夜と命名された赤ちゃんが眠っている。



廣瀬尊夜 【廣瀬葵桜秋ベビー】1/27


伊吹とのスキンシップを終えて、退室間際にチラリとその子も覗く。



「あぁ、気になりますよね。
 咲空良さんの双子の妹さんの赤ちゃんですものね。
 尊夜君も順調ですから、ご安心くださいね」



そう言うと一礼して、俺の前から呼ばれた方へと
駆けつけていく主治医。


そのままお辞儀をしてNICEを後にして葵桜秋の病室へと向かった。



「調子はどうだ?」

「えぇ、随分と落ち着いてきたわ」

「今、伊吹にあってきたよ。
 少し腕に触れてきた。小さい手で俺を握り返して可愛かったよ」


そう……どんな経緯があったとはいえ、
生まれてきた赤ん坊に罪はない。


「そう。伊吹もお父さんが来てくれて喜んでいるわね。
 早く熱が下がればいいのに。

 明日まで様子を見て熱が下がらないようだったら、
 第二病院に搬送するって今朝、言われたわ。

 第二病院の方が建物が新しくて設備が今以上に整ってるんですって」

「わかった。何か決まったら連絡してくれ」

「えぇ。それより、伊吹の出生届……」

「昨日サイトでダウンロードして書類は手に入れた。
 明日は一日、会議で俺は動けないが会議の間に東堂にでも代理提出を頼めたらと思ってる」

「そう」


そんな会話を終えて、彼女思うように30分ほど過ごして本社へと戻り残りの仕事を終える。

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