【B】星のない夜 ~戻らない恋~

「えっと、ご主人は?」

「いえ、私一人です」

「それでは、こちらの部屋へ。

 詳しい話は、先ほどご主人にも連絡させて頂きましたので
 二人が揃われてから責任者よりお話しさせて頂きます」


っと、面談室と記された鍵付きの部屋へと通された。




一人で椅子に座って待ち続ける時間不安だけがこみ上げる。



携帯電話を握りしめて、


*

今、面談室にいます。

*


っと睦樹さんにメールを送信する。



*

今、俺も病院近くの信号だよ。
もう少しで到着する。

待ってて。


*


そう返信が届いて数分後、責任者らしき人と一緒に
睦樹さんが面談室に姿を見せた。



面談室に揃ったところで、責任者が告げたのは
尊夜がNICEから居なくなったと言うこと。




赤ちゃんの取り替えがなかったか、
不審者は侵入しなかったかなど警察にも届け出を出したうえで
全力で尊夜の行方を捜索しているというものだった。






……尊夜が消えた……。






この間は私が抱っこして沐浴させることが出来たのに……。

ようやく1000gの壁を越えられそうだったのに。







責任者に告げられた言葉は、
あまりにも残酷で私は精神状態が追い詰められて
息苦しく感じる。





「咲空良ちゃん?
 咲空良ちゃん?」



睦樹さんの声が微かに聞こえるけど、
一向に呼吸は楽になる兆しはなくて。



「廣瀬さん、大丈夫ですよ。
 ゆっくりと深呼吸して落ち着いてください。

 吸って……吐いて……」



聞こえる声のままにゆっくりと呼吸を繰り返すと、
ようやく私の容体は落ち着いてきた。




「急性ストレスからの過換気症候群ですね。
 いわゆる、過呼吸です。

 尊夜君のことは心配でしょうが、
 病院としましても、警察と協力して全力で行方を探したいと思っています。

 何か進展がありましたら、連絡させて頂きます」




睦樹さんは今にも倒れそうな私を抱きかかえながら、
紀天を迎えに行って病院を後にする。




家に帰った後も、私は何をする気にもなれなくて
ただソファーに座って、ボーっと心【しずか】の遺影を見つめていた。


< 196 / 232 >

この作品をシェア

pagetop