【B】星のない夜 ~戻らない恋~

15.伊吹と志隠~一枚の葉書~ -怜皇-


伊吹と志隠が生まれて、四カ月が過ぎようとした頃、
ようやく保育器からの卒業を得て、帰宅することが許された。


子供たちがNICEを出る日、
チャイルドシートを二つ車につけて
二人で病院へと迎えに行く。


そこで撮影された伊吹と志穏の双子写真。


その後も、咲空良として存在し続ける葵桜秋は
我が子・伊吹と何度も写真を撮り、俺にもその写真の中に入るように強要し続けた。



二人を連れて帰宅した瑠璃垣の邸でも、
葵桜秋が、志穏を実の子供である伊吹と同じように接しようとする兆しは見られなかった。



ベビーベッドの上で、伊吹が泣けばすぐに駆け寄る葵桜秋も
志穏が泣いても、そのままで駆け寄りもせず、
慌てて気がついた木下が駆け寄って抱き上げる。



そんな日々が続いていた。




葵桜秋は志穏を育てることを放棄した。



その態度は瑠璃垣の一族のものを怒らせた。




呼び出された両親に、一言詫びを伝えても、
俺自身、葵桜秋に志穏を育てさせたいとは思えなかった。




伊吹の状態が状態だ。


いつも傍に居させて続けて、
彼女が何にスイッチが入って志穏に暴力を振るうかわからなかった。



咲空良を殺そうとした女。



伊吹の母親だからと、傍で支えるとどれだけ
自分に言い聞かしても、その事実が消え去ることはない。




俺は瑠璃垣の家から志穏を連れ出して母の元を訪ねる。





突然、赤ん坊を抱いて現れた俺に事情を受けとめた母は、
怒って……俺を責めながら泣き崩れた。






『怜皇、アンタなんてことしたの?
 このろくでなしっ!!

 あの家で腐りきった性根、叩きなおしてあげるわ。
 そこになおりなさい』





そう言って近くにあった布団叩きを手に、
俺を責め続ける母を茂さんが宥めてくれた。




それでも母は、祖母として志穏の子育てに手を貸してくれる。
瑠璃垣では得られない愛情をたっぷりと注いで……。



母の自宅・瑠璃垣の邸・そして会社を往復する日々。



そんな子供たちと、彼女の精神状態が僅かに落ち着いてきた時、
ずっとコンタクトをとれていなかった睦樹と咲空良さん宛に、
一通の葉書を送る。




その写真は退院の日、元気な笑顔を見せた
大きくなった志穏の姿が映った伊吹との双子写真。





あんなにも親身になって俺に接してくれた親友に、
心から尊夜と名付けて、愛そうとしてくれていた咲空良に対して
俺が出来る精一杯。





この葉書が……
今も嘆き続ける咲空良に少しでも光を与えますように。
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