【B】星のない夜 ~戻らない恋~

17.鳴り続ける電話  -葵桜秋-


生まれてから四ヶ月ほどすぎて、
私は伊吹を連れて瑠璃垣の邸に帰ることが出来た。

瑠璃垣咲空良の双子の子供として存在している、
志穏も同じ日に退院することが出来た。

用意されたお揃いのベビードレス。



双子らしくお揃いの服に身を包んで、
記念写真をとって車へと向かう。


私の腕の中には伊吹が存在して、
怜皇さまの腕の中には……当然のように志穏が存在する。




……最初に伊吹を抱きしめてくれたら……。



そう思う気持ちと同時に、
穏やかになりかけていた波風が激しく渦を巻いていく。




また……この劣等感……。



伊吹が生まれて、怜皇さまが私を見てくれるようになって
伊吹を愛してくれる。


三人で幸せになれるはずだった未来に、
邪魔するように突然現れた、姉の子供である志穏。


我が子が消えて、
どうしてすぐに奪いに来ないのよ。



本当の子供なら必死になって探して奪い返すでしょ。


咲空良が奪い返しに来たら、
私も伊吹も、心穏やかに過ごせるのに。


そう思う声も誰にも届かない。


車にのって瑠璃垣の邸へと帰ると一斉に使用人たちが二人の赤子を迎え入れる。



「お帰りなさいませ、怜皇さま、咲空良さま。
 伊吹坊ちゃまと、志穏坊ちゃまのお部屋もお支度しております。

 どうぞご案内いたします」


木下がそう言って私たちに一礼をして先を歩く。



私の部屋の隣に用意された伊吹の部屋。
そして怜皇さまよりに支度された志穏の部屋。


まだベビーベッドしか存在しない広い部屋。




「伊吹にまだ一人部屋は早いわ。
 伊吹は私の部屋で育てます。

 ベッドは私の部屋に」

「かしこまりました」

「志穏さまは?」

「そうね、木下、貴方に頼むわ。
 お姉ちゃんの子供だもの、育てられて嬉しいでしょう?

 私、使用人たちの噂話知ってるわ。

 伊吹が耳に障害を持ってしまったから、
 志穏が後継者になればいいって、言ってたわね」



偶然、邸の中で耳にした不快な噂話を突きつける。


「滅相もない。
 伊吹様も志穏様も、お二人とも瑠璃垣の大切な御子息。

 そのようなことを言う使用人がいるはずがありません。
 もし本当にいるのでしたら、早々に解雇いたしましょう」


そう言って木下は私に切り返す。


「そうね。
 だったら、今居る使用人の全てを解雇することね。

 伊吹と休みます。
 志穏は任せるわ」



志穏を支持する声が大きくなればなるほど、
私の意識は伊吹へと働く。


誰にも愛されない子供なら、望まれない子供なら
何倍ものの愛情で我が子を抱きしめるしかないじゃない。



志穏には、あの子を望む沢山の声がある。
あの子は一人でも生きていける。





そのまま伊吹を連れて部屋の中に入ると、
ベビーベッドに寝かせて、体を優しくトントンしてスキンシップ。


私が触れる度に反応を見せてくれる伊吹。



ちゃんと大きくなってる。



我が子の成長は、人より少しだけ遅いだけよ。
ちゃんと伊吹も大きくなってるもの。


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