【B】星のない夜 ~戻らない恋~


問い直す私に、義母はゆっくりと語るように話し始める。



「ここ瑠璃垣には、家を守りるためになされてきた数々の出来事があるわ。
 それらは代々、親族会議で決定されて、親族の総意で封印として
 墓場まで持っていくのが約束となっているの。

 私の時代。
 貴方も知っての通り、怜皇は私の子供ではありません。
 
 だけど私にも怜皇の名を継がせる子供が存在しました。
 私の子は死産で、後継者たるその名をあげることは叶いませんでしたが
 その名を継ぐ怜皇が今は私の傍に居ます。

 今の怜皇は愛人の子供。
 だけど一部の親族以外で、その秘密を知るものはいないわ。

 それと同じように、貴方と双子の姉の入れ替わり事件。
 それも、瑠璃の封印として今は扱われてる。

 そして伊吹と志穏の双子と、そのそれぞれの生い立ちも。

 貴方と関わるだけでも、すでに二つの封印がある。

 貴方にとっての最後の封印。
 それは昨日の親族会議で、皆の総意で決まったことよ。

 瑠璃垣伊吹。
 貴方の兄の伊吹から、その名を弟の志穏に。

 伊吹では、今の瑠璃垣を任せることも担わせることも出来ないわ。
 能力の乏しい子に、そんな重責を押し付ける方が、貴方にもとっても辛いでしょう?

 障害を持って生まれた伊吹には、瑠璃垣をしょって立つことなど難しいわ」




義母から発せられた言葉に、私は一瞬思考回路が真っ白になって停止してしまう。




……私の伊吹が……後継者をおろされる?




「そんなこと許されないわ。
 瑠璃垣はその名を継いだものが、伊吹の名を継いだものが後継者よ。

 一度、伊吹の名をついた私の子供が、その名からおろされるなんて
 そんな馬鹿なことはないわ。

 志穏は別の家の子じゃない?
 それを誘拐して、私の子に……馬鹿げてるとおもわないの?

 壊れてると思わないの?
 そんなこと、法律が許さないわよ」

「……そう……真実が公になれば法には触れるかもしれない。

 だけど残念ながら、この一件は貴方の負けよ。
 貴方が何を話しても、貴方の話には信ぴょう性など何一つないもの」




そう言うと、義母は応接室のソファーからゆっくりと立ち上がった。



「用件は伝えました。
 以後、志穏は瑠璃垣伊吹。

 伊吹は瑠璃垣志穏。

 伊吹の名を継ぐ者は、瑠璃垣の真の後継者です。
 貴方も、そのことをゆめゆめ忘れぬように。

 話はそれだけです」




最後の一言を言い残して、屋敷から出て行った義母。


その義母を見送った後、私はキッチンから塩の入った壺を抱えてきて、
玄関にばらまく。


塩を掴んで、玄関前にばらまくものの、心はすっきり晴れる兆しがない。

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