【B】星のない夜 ~戻らない恋~


この人とは私が好きになったから結ばれたんだって、
そうやって胸をはれるような時間を紡いで……幸せになりたいの。



だって……一生を添い遂げる人なんだから、
それくらいの願いを抱いてもいいじゃない?




それなのに……初めて逢って、その場で肉体関係なんて
道具にしか思われてないみたいで耐えられない。



あまりにも惨めすぎるから。



今日もすべての一日を終えて一人、
広すぎる寝室へと向かう。



バスルームでお風呂を済ませて、
ゆっくりとベットの中に潜り込む。



ベットから見つめ続けるのは
怜皇さんが入ってくるはずの開かずの扉。





あの日から閉ざされたままの
扉を見つめながら今日も、夜を過ごす。




何度も何度も夜中に目覚める眠れない時間。




どれだけ目が覚めても、
隣に怜皇さんがいる気配はない。








朝……寂しさと惨めさの中で一人、目覚める。
そんな日々の繰り返し。







……私……何のために来てるの?
私自身の夢を諦めさせられて。




本当なら、夢の仕事を手に希望をもって明るく働いている時間。



それなのに……私は一人部屋に閉じこもってる。



その日、何時もの朝食の時間、給仕をする花楓さんに頼んで、
知可子さんを呼び寄せる。




「お呼びでしょうか?
 咲空良さま」

「知可子さん、突然ごめんなさい。
 あの……怜皇さんは?」

「怜皇坊ちゃんは、昨日3時過ぎてお戻りになられて
 今朝方、5時前には秘書の東堂と出掛けました」



さらりと告げられた言葉に絶句する。



「どうして私に教えてくれなかったの?」




少し怒りを含んだ声を浴びせる。




「咲空良さまは、ご就寝なさった後で
 怜皇ぼっちゃんにも起こさなくて良いと
 仰せつかりましたので」



そう切り返されると、
だまって頷くことしか出来なかった。




あの日以来、一度も帰って来ていないなら
まだしも……帰って来ているのに、
二人の寝室には一度も顔を出さないのだとしたら……
使用人たちがあのような噂話で盛り上がるのも一理あるわけで。



「あの……怜皇さんから何か聞いていますか?

 東堂秘書が私を迎えに来てくれた時、
 私の荷物は後から業者の方が
 引き取ってくださると言うことだったんです。

 携帯の充電器とか、大切なものが沢山あるので
 何処にあるのかと……」




すぐにその場所に案内してくれるのを
期待して告げた言葉も、知可子さんか聞いたのは期待外れの言葉。

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