【B】星のない夜 ~戻らない恋~


「心ちゃん、そりゃないでしょ。

 オレが怜皇と知り合いって、そりゃ信じられないかもだけど
 オレだって神前悧羅の卒業生だよ。

 怜皇は、同級生でルームメイトだった。
 それ以来、今も交流はあるよ。

 あの学生の頃との交流と今は、少し形は変わってきてしまったけどね。
 アイツはオレの職場のトップを背負う存在。

 オレはアイツが経営する子会社の一つに、
 必死にしがみつく社員だからな。

 って、心ちゃん。
 詮索はこれくらいでいいか?

 少し出掛けようか?
 卒業のお祝いくらいさせて貰えるかな?」



そう言って、校門からゆっくりと商店街に向かおうとする
大東さんと心。


そして少し離れて、ゆっくりとついていく
お邪魔虫の私。



ダメ……気を利かさなきゃ。
二人にしてあげないと……。



両想いの二人を知っているから。




「あっ、あの……。
 心、大東さん、私……家のものと約束していたのよ。
 
ごめんなさい」



そう口早に告げた私は、すぐにタクシーを捕まえて
乗り込むとその場を後にした。


タクシーの車内、空虚さが押し寄せてくる。




何時までも荷物でいてはいけないの。


心<しずか>には、心<しずか>の時間があるもの。
大東さんと歩いていく未来の布石を築く
そんな充実した時間が必要だもの。


必死に言い聞かせ続けた。




その後もすぐに帰る気にはならなくて、
周辺をプラプラと歩いて、夜になって帰りついた。




自宅の中入ると、
先に帰っていた葵桜秋が、
私をじっと見つめた。




「咲空良、どうして来なかったの?
 皆、咲空良のこと待ってたのよ」


「ごめんなさい。
 ちょっと気分が優れなかったから」



そう切り返した途端、顔を覗かせた両親が
慌ただしく私を気遣う。



「もう落ち着きました。
 卒業式で緊張してしまったみたい」


そう言うと、一礼して私たちの部屋へと移動した。

着替えを済ませて、リビングへと降りた私と葵桜秋を並べて、
対面しながら両親はゆっくりと切り出した。



「咲空良、葵桜秋まずは卒業おめでとう。

 これから社会人としての一歩を大きく踏み出す
 二人に伝えなければいけないことがある」



そう言って沈痛な面持ちで会話を切り出した父は、
隣にいる母とアイコンタクトをして、ゆっくりと言葉を続けた。



「今朝、本家の亡きお祖父様<おじいさま>の
 交わした遺言が見つかった」




お祖父さまは、先月、心筋梗塞で突然倒れたまま帰らぬ人となった。


遺言?


その後、父が続けた言葉に私はそのまま固まった。



『ワシの初孫を次の瑠璃垣を背負うものに託す』




そう記された祖父の達筆な字。


その下に続くのは、祖父と祖父の親友でもあった瑠璃垣の会長との間に
取り決められた許嫁の誓約書。



ワシの初孫。

そう記された枠には、都城咲空良と私の名前が記載され
瑠璃垣の欄には校門で姿を見かけたあの人
……瑠璃垣怜皇の名前が記載されていた。


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