【B】星のない夜 ~戻らない恋~

「目が覚めたかい?」

「あの……私……」

「気分はどう?」

「まだ少し頭が痛いですけど……
 気持ち悪いのはおさまりました。

 あっ…あの……。
 申し訳ありませんでした。

 怜皇さまのスーツ、汚してしまって」





酔っぱらっていても、俺のスーツを汚した自覚はあるのか
申し訳なさそうに彼女は謝罪する。



髪をタオルで乾かしながら、
ベッドサイドの椅子へと腰を下ろす。



「何かお飲みになりますか?」



ベッドから体を起こして近衛が声をかける。



「頼んでいいのかな?

 冷蔵庫にお酒が入ってる。
 水割り作って貰える?」

「……はい……」




近衛はまだ一度も水割りを作ったことがないのか、
お酒と水を持って、戸惑ったように固まっていた。



「悪いね。

 グラスに氷をたっぷりといれて、
 40mlほどお酒を入れてくれるか?

 その後、13回半ほどかき混ぜてくれ。

 グラスに氷を一つ追加して、
 ミネラルウォーターを注いでまた3回混ぜる」



伝える通りに、彼女は水割りを作り
俺の方へと出してくれる。



「美味しいよ」



グラスに手を伸ばして、口に含むと
彼女に伝わるように告げた。


彼女が時折見せる表情が、何処かで出逢ったことがあるような気がして
気になって仕方がない。


そして……一緒に時間を過ごしているうちに、
何処か同じ空気を感じていた。



「君にはお酒は飲ませられないね。

 冷蔵庫にソフトドリンクも入ってあっただろう。
 飲みなさい」


彼女をからかうように告げる。



近衛は少し怒ったような表情を見せて、
冷蔵庫の方に移動する。

そこでフルーツミックスのジュースを注いで戻ってくると、
俺は隣に座りやすいように、椅子をひいて彼女をエスコートする。




彼女が作る水割りを飲みながら、
彼女といろんな話をする。





彼女と何処であっているのかを見つけ出したくて。
だけどその答えは、すぐには見つけ出せなかった。



「あの……私の服は?」


「君の服も汚れてしまっていたからね。

 適当に服を見繕って東堂に着替えさせた。
 君の服も俺の服もホテルのクリーニングに出してる。 

 朝には仕上がってくるだろう」





その夜、俺は……いつものように、
近衛と一夜を共にした……。



このホテルはの一室はその為の場所。


全ては俺仕様にカスタマイズされて、
私物も持ち込んである空間。



これまでも、この場所で何どか女と一晩過ごしてきた。


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