【B】星のない夜 ~戻らない恋~



「心(しずか)、咲空良ちゃん。

 はい、少し落ち着いてお茶でも飲めば?
 積もる話、沢山あるよね。

 心(しずか)、今日は俺……マンションに帰るよ。

 咲空良ちゃんとゆっくり過ごすといいよ。

 咲空良ちゃんのことは、怜皇の親友としても
 ちゃんと怜皇に伝えておくから。

 ここに来てるの、伝えてないよね」


睦樹さんは、サラリと私の嘘を見抜いて紡いだ。



「睦樹……ごめん……」

「いいよ。

 心(しずか)がやりたいようにすればいいから」



テーブルの上に並べられたお揃いのティーカップ。


注がれているのは紅茶。



紅茶を置くと、睦樹さんは二階へと上がって、
着替えを済ませるとリュック一つ抱えて外へと出ていった。



二人きりになったリビング。




私はこの1か月、瑠璃垣の家で経験したことを
泣きながら吐き出した。

 

一通り私の言葉を受け止めたくれた心(しずか)は、
唯一、怜皇さんに対して怒ってくれた存在。




周囲は皆、怜皇さんの味方をするのに……。
彼女だけは私に寄り添ってくれた。



紅茶タイムを楽しんだ後、
心(しずか)は私を外へと連れ出した。




財布の中には、身分証明書が残ってる。


怜皇さんに寄って処分されてしまった
通帳などの紛失届や再発行手続き。



そう言った手続きに、1日中付き合ってくれて
ちょっぴりの買い物も楽しんだ。



心(しずか)が運転する車に乗って通り過ぎる窓から、
今も待ち続ける、ハイヤーを見かける。



「どうかした?咲空良?」

「ううん。
 何でもない……」

「今夜は眠らさないよ。

 女二人が集まったら、
 コイバナしたいじゃない?

 フローシアのクラスメイトのその後、
 いろいろと耳に入ってきたのよ。

 皆、大学卒業して一斉に動き出したわよね」


そう言う心(しずか)は
少し楽しそうに話を続けた。


「後……、私も咲空良に報告したいことあるの」



心(しずか)の言葉を受け止めて、
ゆっくりと頷く。




その夜、夕飯と入浴タイムの後、通された心(しずか)の部屋の床に
私の布団を敷かれた。


心(しずか)のベッドに腰掛けた時、
心(しずか)の部屋に、こっそりと置かれた、
男性ものの香水に気が付いた。
 


……もしかして……。




「咲空良……。

 私、睦樹と結婚することになったの。

 睦樹……廣瀬家に養子に入ってくれるって」



そうゆっくりと切り出した心(しずか)。



「後……もう一つ」


心(しずか)は、そう呟くと
お腹の上にそっと手を重ねた。


「心(しずか)……。
 もしかして?」

「うん……妊娠したみたい。
 今、3か月」


告げられた現実に驚きが隠せない。



「睦樹と繋がったのは一度だけ。
 眠ってる彼を私が襲ったの。

 ズルいよね。

 けど……彼、私の事責めずに受け止めてくれた。
 結婚して幸せにするっていってくれた。

 お父さんが結婚を許してくれる条件が、
 睦樹が廣瀬の家に養子に来ることだったの。

 それも受け入れてくれた……。

 来月、急だけど結婚式するの。
 良かったら、咲空良にも来てほしい。

 今の咲空良に、怜皇さんと一緒に結婚式に出て欲しいって
 言うのは残酷なことだとは思ってる。
 
 だけど……咲空良は私にとっての親友で、
 怜皇さんは、睦樹にとっての親友だから……」




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