【B】星のない夜 ~戻らない恋~


「うん。葵桜秋、気にせず使って」



すぐに帰ってくる返事。


その後、咲空良が聞いていた音楽はすぐに止まった。


ヘッドホンをつけたのか、邪魔にならないように消したのは、
その辺はわからない。


鏡台の前、鏡を見つめながら
艶々しい黒髪をゆっくりと乾かしていく。


咲空良と同じ、この黒髪が自慢だった。


だけど……もう終わり。


双子に酔いしれて遊んで、騙して
憧れの人を奪われるそんな惨めな私は
もう終わりにしなきゃ。



入社の日までに、美容室に行かなきゃ。



ドライヤーで丁寧に乾かしていく
肩より少し短めの髪。




ドライヤーが終わった後は、肌の手入れをして、
ゆっくりと自分のテーブルの前に座った。


キッチンから持ってきてたマグカップの中の紅茶を飲みながら
帰り道に買ってきたファッション誌とビジネス誌を手に取る。


ファッション誌をペラペラと軽くめくって
すぐに閉じると、ビジネス誌の方を引き寄せる。


ビシネス誌の表紙。



期待の新星。

瑠璃垣コーポレーション 後継者
瑠璃垣怜皇。


デカデカと書かれたその見出しに
綴られた名前を指先で辿る。




瑠璃垣怜皇。


怜皇さまとお会いしたのは、
高等部の一度だけ。

神前悧羅学院の学祭に、
フローシアの代表生徒して交流を深めるために
招かれた舞踏会の夜。



フローシアの生徒会長だった、
咲空良は……招待されたその場所に行くのを嫌がった。


だから私は……入れ替わった。



葵桜秋としての私ではなく、
咲空良として出席した……その日
私たち、フローシアの生徒を
エスコートしてくれたのは怜皇さまだった。



それ以来……、私は怜皇さまを追い続ける。



瑠璃垣で働く平社員の娘と、
怜皇さまは将来の瑠璃垣を背負って立つ
未来の後継者。



叶うはずの恋じゃないのは知っていた。



それでも少しでも近づきたくて、
真っ向から勝負して、瑠璃垣へと内定が決まった。


自分の実力で得ることが出来た
瑠璃垣への就職は私にとって誇りだった。



ただお傍にいて……見つめていたい。



それだけでも十分だと思ってたのに、
そんな思いは無残に打ち消された。



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