【B】星のない夜 ~戻らない恋~

22.親友の結婚式  -咲空良-


「咲空良さま、怜皇様よりこちらをお預かりしています」


そう言って知可子さんから手渡された手紙。
差出人は、大東睦樹 廣瀬心。


寿の切手が貼られた封筒をペーパーナイフで開くと
結婚式の招待状が出てきた。



「お友達の結婚式なのですね。

 怜皇様より結婚式に関わるお支度は、全て咲空良さまの希望通りにと
 仰せつかっております」


知可子さんは言葉を付け足す。



私のことを考えてくれている怜皇さんの優しさに
心が温かくなる。



「お式には和服と洋服どちらでお出掛けになりますか?」

「えっと、着物で……。
 思い出の詰まった私の振袖で出掛けたいと思っています」

「咲空良さまの振袖と申しますと、こちらにいらした際にお召しになられた
 京友禅の振袖でございますね」

「はい……。いけませんか?」

「かしこまりました。咲空良さまのお望みがその御着物でしたら、
 そのようにお支度を整えましょう。

 ですが大変申し上げにくいのですが、帯揚げ・帯締めと、袋帯は
 私がお選びしても宜しゅうございますか?」

「えっ?」

「同じ御着物でも、帯揚げ・帯締め・袋帯の三点を変えますと、
 その御着物はまた違った表情を見せてくれるのです。

 こちらのお屋敷に入られた日にお召しになられていた咲空良さまの印象は、
 幼さを感じさせる表情をしておられました。

 ですが怜皇様の隣に立つ、これからの咲空良さまを考えれば
 堂々と立ち振る舞えるそう言った表情も必要でしょう。

 瑠璃垣の一族に仲間入りすることが決められている存在であれば、
 普段から、そう言った目にさらされても動じないお覚悟が必要となります。

 ですから……」



知可子さんが告げた言葉は、大袈裟じゃないかなーって
そんな風にも感じたけれど、それでも私は「宜しくお願いします」とお辞儀をした。


衣装一つで本当に大袈裟。

それでも、知可子さんが私のことを考えてくれているのかもしれないって
そんな風に思うことが出来たから。


最初は怖くて、ずっと苦手だった知可子さん。

だけど……本当は、私が感じようとしなかっただけなのかなって
知ろうとしなかっただけなのかなって……そんな風に思った。



知可子さんと離れた後、私は怜皇さんから貰った携帯電話を握りしめる。
表示させる電話番号は、心【しずか】。


新しい携帯電話を貰ってからは、時折電話が出来るようになった。


そして今まで使っていた私の電池の切れた電話も、
葵桜秋が用意してくれた充電アダプターで復活したものの
それは葵桜秋との連絡用の電話として使っていた。


窓を眺めながらコールする。


「もしもし」

「心【しずか】?

 有難う。
 今、招待状受け取った。

 瑠璃垣の屋敷に送ってくれて有難う。
 住所、すぐにわかった?」

「瑠璃垣の家は、怜皇さんと一緒だもの。
 睦樹がちゃんと知ってるよ」

「確かに……」


妙に納得しながら、会話を続ける。

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