音匣マリア
「蓮!?名前呼びってどーいう事!?ちゃんと説明しなさいよ!!」


小柳さんの目がマジだ。酔いが吹っ飛んで目が据わってる。怖い。マジで怖い。


逃げたいけど逃がしてくれそうにないや……。どうすれば良いかな?


「お客様、もうそろそろ飲み放題のお時間ラストオーダーですが、追加のご注文は……」


ナイスフォロー店員さん!!


「えーもう終わり!?今からがいいとこだっつの!」

「今日はもう帰りましょ、ね、小柳さん?」


えへ、と愛想笑いで会計を済ませて小柳さんを外に押し出した。

余計な詮索されても困るし!


ところが小柳さんはそら恐ろしい事を言い出した。


「……菜月。飲み直すよ。海野さんの店に行く!」


駄目駄目駄目駄目!!それだけは絶対に駄目!!


「蓮の店はちょっと勘弁して下さいよぅ……。あっ、ヨッシー…中井さんの店で良いじゃないですか!」


そうだよ、蓮がいきなり会社に来てくれたあの日から、蓮に会ってないんだもん。

今更どんな顔で蓮に会えばいいのか分かんない。


「なーんでぇ?何で海野さんとこじゃ駄目なのー?」


小柳さんの追求の手は緩まない。


早いとこヨッシーの店に行って、ヨッシーに助けて貰おう。





「……で、正直に言いなさい。あんたと海野さんはどんな関係なの!?」


ヨッシーの店に場所を移した私達。


カウンターに立つヨッシーの前で、小柳さんは私を攻めている。いや文字どおり、私に逃げ道を残すまいと一切の言い訳を許さないつもりらしい。


それを見て、隠れてお腹を押さえて笑うヨッシーは性悪だ。



「……どんな関係って言われても……」

一応はカレカノ…だった、って事なのかな?

今はどうなんだろう?私の方から「距離を置きたい」とは言ったけど、これって自然消滅になるのかな?



本当はまだ、蓮が好き。



だけど、実際に逢って蓮に触れられれば、トラウマを思い出して体が拒否する事も確かだ。



それじゃいけないんだ…って思えるようになったのは、吉田さんご夫妻に会ってからだった。

生きていれば、色んな事がある。


二人で試練を乗り越えないと、強い絆にはなり得ないんだって気づかされた。

だから、今は仕事が忙しくて蓮とは毎日電話で話すぐらいだけど、仕事が一段落したらちゃんと蓮と向き合おう…って考えるようになれたんだ。






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