音匣マリア
花嫁衣装って、自分の結婚式以外で着るとお嫁さんにいけなくなるってジンクスは本当だろうか?



でもこんなに可愛いドレスなら、何回でも着たいよね。


好きな人の隣に立って、バージンロードをみんなに祝福されながらゆっくりと歩く。



女の子なら誰もが一度は憧れる花嫁姿。



お色直しには赤いドレス。






私、北都菜月(ほくと なつき)。短大を春に卒業して、ハウスウエディングなどに使われるこの結婚式場に就職してから二ヶ月が経ったばかりの新入社員。



いつもなら、インフォメーションで式場案内の仕事をしているのに。



まさか、こんな仕事をするなんて思ってもみなかった。



ブライダル・フェアの衣装の打ち合わせをしていた現場に偶然居合わせてしまい、ピンク色をした肩開きのドレスを最初に見た瞬間思わず一目惚れして、うっかり「可愛いです!」なんて言って手にとってみたら「じゃあ次の花嫁役は菜月ちゃんだね」なんてみんなに言われて、あっさりと花嫁役に決まってしまった。



ブライダル・フェアの花嫁役。


こんな簡単に決めちゃっていいのかな?





そして迎えたフェアの当日、つまり今日。


すごい緊張するなぁ。



今この式場にはお客さんが100人ぐらい入ってるらしいって、さっき支配人が言ってたけど。



見られてるんだよね。



うわ、緊張する。



チャペル式の式が終わると、模擬披露宴の会場に移りそこで様々な演出や効果のプレゼン。


来場のお客様にはハーフコースの料理が呈され、入り口に置かれた三段重ねのチョコレートフォンデュからは甘い香りが漂っている。




私が経験したことのない非日常。




ドキドキしながら俯いてたら、会場の照明が落とされ、場違いとも思えるホイッスルの音が鳴り響いた。












.
< 3 / 158 >

この作品をシェア

pagetop