音匣マリア
それからの車中では、菜月とあまり会話らしい会話は続かなくて。


もっとも車の前の席には姉さんや中井さんが乗ってるから突っ込んだ話をするわけにもいかないから、それはそれで仕方ないか。




駐車場に車を停めて、四人でシネコンに向かう。



ここから先は別行動。



観たい映画の上映時間にギリギリ間に合った姉さん達は、チケットを買って早々に館内に移動した。


まだ時間が余っていた俺と菜月は、フードコーナーで飲み物を頼んで暇を潰す。



中井さんが菜月に電話をかけた際、菜月に対しての俺の気持ちを言ってしまったらしい。


中途半端なお節介焼かれても困るんだけど。

菜月が目の前にいることを目茶苦茶意識してしまって、挙動不審になっちまう。


女を目の前にしてこんなに緊張するなんて俺初めてだ。


「あの」

「えと」


うわ言葉が被った。なにやってんだ、俺。


「……菜月から喋っていいよ」

「いえ、蓮さんからどうぞ」


何なんだよこれ。


恋愛初心者の中高生のデートじゃあるまいし、なんでこんな事でお互い視線を逸らしちゃってんだよ。


うわ恥ずかしい。というよりこの空気が居たたまれない。とにかくなんか話さないと。


「あのさ、何か軽く食べて行く?まだ30分ぐらいは余裕あるし」


そう言って何とか場を繋げることにすら緊張する。


「軽く…なら、ポップコーンでもいい?お昼は食べてきたからあんまりお腹空いてない…んだ」


菜月がフードメニューを指差して小首を傾げた。


小動物を思わせるその動作があどけなくて可愛いと思う。


「フレーバーは何がいい?」

「ストロベリー…美味しそう…」


了解、と言い残してフードカウンターでストロベリーのポップコーンを注文した。


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