音匣マリア
目が覚めると辺りは真っ暗で。


そして頭に当たる硬い感触。


……私、何の上に頭を乗せてた……?


慌ててベッドから飛び起きると掛けていた布団がずり落ちた。……え、なんで裸ですか……?


まさか、これは。


蓮も裸で隣に寝ているこの状況は。




や、ら、か、し、たっ!?




蓮が作ったカクテルを、2杯ぐらい飲んだとこまでは覚えてる。

それから後の記憶が欠落していて真っ青になった。


……認めるしかないけど、ヤっちゃったんだよね、うん、そうだよね?


でもさ、誘ったのは蓮からだったの?まさかとは思うけど私から誘ったとかあり得ないよね?でも無理矢理、蓮が襲ったとも考えられないけど……。


お互いに雰囲気に流されてこうなった、とか言う?




「……さみぃ…。起きたのか?」


寝起きのハスキーな声で蓮が囁いた。


「えっあのっわたっ私!」


状況にパニクって、支離滅裂な単語すら出てこない。


「……菜月。すげぇ可愛かった。こっちに来て」


腕を強く引っ張られて、私はぽすんと蓮の胸の中に納まった。



蓮の手は私の体を絶えず撫で回す。


お互い一糸纏わぬ素肌を直に触れ合えば、先刻の情事の感覚をカラダが思い出してきた。



あんなに感じるエッチなんて、今までに経験したことがないぐらいに頭が真っ白になってた。

リードする蓮が上手すぎて、私はただただそれに流されるまま何度も……翻弄されたんだっけ。

自分でも抑えが利かないぐらい、乱れていたような気がする。それは酔ったせいか快楽のせいかは定かではないけれど。


「このまま朝まで寝てる?それとも、も一回…ヤる?」


髪に顔を埋められると、その息遣いが耳に掛かってどうしようもなく火照ってしまう。蓮の誘うような言葉には流されそうになる。


だけど駄目じゃん!



「私、明日は仕事だもん。帰んないと…」


まさか蓮の家でこんなことになるなんて予想してもいなかったから、着替えも持ってきてないし。


「やだ。まだお前といたい。明日の朝早く送ってくから、もう少しこのまま……」


抱き枕のように手も足も蓮に拘束された私は身動きも取れず、ついには抵抗するのも諦めた。


蓮、眠たいのかな?


目を閉じた蓮の瞼をそっと撫でた。くっきりとした二重に長い睫毛。



眠る姿も様になるってどうよ?ますます好きになっちゃうじゃないか。


「そんなに見んなよ」


蓮、起きてたの?フェイントとか卑怯だよ。


「……蓮のこと、…好き……かも知れない」

「なんだよ『かも知れない』って。そこは素直に『好き』でいいだろ」


ぶふっと吹き出して蓮が笑う。

いつもは決して愛想が良いとは言えない蓮の笑顔は、かなりレアかも。


「お前さ、飯食った後の事、覚えてる?」


蓮の質問には答えられない。




だってその記憶が全くないんだもん。


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