音匣マリア
休日明けの翌日、昼から定例の実績報告会のためにまたしても瀬名さんの店に足を運ぶ破目になった。

昨日はあんな形で瀬名さんの前から去った訳だし、俺としては行き辛いと言うより他にない。


何よりあの女とは関わり合いたくもない。



瀬名さんの店の奥には広い会議室兼貯蔵庫があって、定例会はそこで行われる。


鉛のように重くなった足で、その会議室へと一歩踏み出した。


中井さんはすでに席に着いていて、他の店舗のリーダー二人が、資料を片手にパソコンと睨み合っている。


俺も持参した1週間分の売り上げ表と毎日の客数・部門別の売り上げに関しての資料のデータが入ったUSBを準備し、パソコンを立ち上げてからそれを差した。


続けて、瀬名さん宛にそれらのデータをメールで送る。



最近は冷え込んできたせいか、夏のようには客数は伸びてはいない。それに飲食店に関しても、今は厳しい時代だ。


どうすっかな。毎月のイベントでも新たに増やすか?


売り上げ増に繋がるプランに考えを巡らせていると、手前のドアから瀬名さんが会議室に入ってきた。


皆同じように立ち上がって挨拶をする。



先月の成績としては、中井さんの店が一番良くて、俺の店が二番目。一番悪い店に関しては、テナント代すら捻出するのでさえ苦労しそうな売上だ。


そして瀬名さんには、俺の店では客数が伸びるような何かイベントをするかキャッチの仕方を工夫するように、との言葉をもらってしまう。


分かっちゃいるんだけどな……。


経営や営業、接客方針についてのディスカッションをようやく終えると、もう店の開店時刻だ。


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