音匣マリア
菜月から……菜月と連絡を絶って1ヶ月が過ぎた。


その間菜月からの連絡は来ない。


何度も俺の方から電話をかけようか、それとも菜月の家まで押し掛けようかと思ったか分からない。


だけど、菜月があの日、何故山影って奴と会っていたのかをあいつの口から説明されるまでは、俺の方からは絶対に折れてはやらないと決めたんだ。


なのに菜月は連絡も寄越さず、気がつけば11月になっていた。


……旅行だって、楽しみにしていたんだけどな……。


最近は仕事に出るのすら億劫になった。


だから店の事はほとんど山寺達に任せて、俺は裏方やキャッチに夜な夜な眠らない街を彷徨った。


そのオンナに会うのは、必然だったのかもな。



うちの店の近くのキャバクラで働いている[リコ]が、キャッチで交差点に立っていた俺を偶然みつけて近寄った。


リコとは昔、まだ菜月と付き合う前に何度か体を重ねた事がある。


リコにすれば枕営業なんだから、と割りきって続けた関係だったから、後腐れはないオンナだった。


「やーだ、蓮がキャッチしてんのー?そんなにヤバイの、パスクィーノ?」

「違ぇよ。俺が客引きした方が客の入りが良いんだよ」


これは本当。山寺達がやるより、俺が街に出て引っ掻けた方が新規の客は掴みやすい事を最近になって知った。

その点のセールストークや、客へのアプローチはいずれ山寺達とロープレして技術を上げさせなければなんねぇな。


「アタシ今日は休みだから、久しぶりに蓮の店に行っちゃおっかな」

「ボトルだよな?」


リコは来店時には必ずボトルを入れてくれる。前は後輩達も呼んでくれて来てたから、上得意ではあった。


「CCね。はい、一名様ごあんなーい」

「先に行ってろよ。もう少しやってから俺も行くから」


既に酔っているのか、上機嫌なリコを促して先に行かせた。


寒い木枯しが顔や首に吹き付ける。



一人で立っている事が、こんなに淋しく想えるなんて。



菜月が側にいないだけで。



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