浮気は、いいよ。



「お呼びたてしてスイマセン」



「いえ、ただこの後会議があるので、あまり時間がないんですよ」



爽やかイケメンは、苦笑いすると『会議だるいわー』と小さく零した。



………悪いヤツでは、なさそうだ。



いっそ、悪いヤツなら良かったのに。



「優里とは何にもしてませんよ」



こっちから何も質問していないのに、答えが返ってきた。



そんな爽やかイケメンは、ここに来る途中で買ったと思われる缶コーヒーを見せながら『ブラックと微糖、どっちがイイっスか⁇』と言った。



『ブラックで』と言うと、『ヨカッター。 オレ、苦いの無理なんで』などと笑う、優里の元カレ。



優里が好きになる理由が、なんとなく分かる。



優里がまた好きになっても、おかしくはない。



「会ってたんですよね⁇ 優里と」



「『会ってた』ってゆーか、『会ってます』」



悠介は、わざわざ現在進行形にした。



「んーーー。 沙耶香から聞いたんですよね⁇ アイツ、何て⁇」



「『優里も元カレと会ってる』って」



オレが答えると、悠介は『優里も、か』
と少し笑った。



「沙耶香、よっぽど幸太郎さんが好きなんだなー」




悠介は『沙耶香にしとけよ』とでも言いたいのか。



「事実しか言わなかったとしても、話した事実が断片的だと、誤解しか生まれなくなるモンですね。 沙耶香、高校の時、国語得意だったもんなー。 嘘を吐くよりよっぽど高度」



悠介は自分の中だけで納得し始めた。



「どういう意味⁇」



「沙耶香の言った通り。 ただ『優里も元カレに会ってる』けど『優里もアンタらと一緒』じゃないッスよ」



悠介の回りくどい言い方に、少しイラつく。



「幸太郎さんは、優里と離婚したくないんでしょ」



コイツ、見透かしてる。



「残念ですけど、優里とは何もありません。 『おあいこ』にはなりませんよ」



そう言って袖をずらした悠介は、手首を顔面に持っていき、腕時計を覗き込むと『やべ、行かないと』と渋い顔をした。



「スイマセン、シゴト戻って下さい」



会社に戻る様に促すと、悠介は『何かバタバタしててスイマセン』と言って軽く頭を下げると、走って消えて行った。








『おあいこ』にはなりませんよ。







オレは、優里にも浮気してて欲しかったんだ。
< 66 / 159 >

この作品をシェア

pagetop