† Lの呪縛 †
無我夢中で走っているオリヴィアに後ろを振り返る余裕はなかった。


もう追いかけては来ていないかもしれないが、中々足を止められない。


息を乱し必死な顔をして全速力で走っているオリヴィアを、周りの人たちは不思議そうな顔をして見た。


ちょうど物陰になっているところに身を寄せ、漸くオリヴィアは走るのを止めた。


激しく肩を上下に揺らし、どくどくと煩い胸にギュッと手を当てた。


そしてその場に座り込み、膝を抱えた。


微かに周りの声や音が聞こえるものの、オリヴィアのいる場所は暗く、比較的静かだった。


人の声よりも波の音の方が大きく感じられる。


オリヴィアは遠くの海を眺めながら、シドから逃げてしまった事を早くも後悔していた。


シドの気持ちも分かっていたが、それを全て受け入れるのは違うのではないか……そう思うのなら自分の気持ちをもっと上手く伝えるべきだったのではないか……そんな思いで胸がいっぱいだった。



「っ!?」



突然背後から男がオリヴィアの鼻と口を布切れで押さえこんだ。


布には薬品が染み込ませてあり、突然の事と上手く息が出来ないオリヴィアはパニックになる。


必死に抵抗するが力で敵うはずもなく、意識がもうろうとなりとうとう大きな瞳を閉じてしまった。


男は動かなくなったオリヴィアを抱きかかえ、物陰の奥へと姿を消した。




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