産まれる。



その時の嫁は


いかにも、何かを恨んだような表情で

俺を睨み付けた。


こんな彼女を見たのは、久しぶりのことで

恐怖を感じるほどだった。








帰宅した彼女を無視していたせいか

今日はかなり機嫌が悪かった。



俺は新聞を眺めつつ、寝転がっていると

いきなり彼女は寝室から持ってきた俺のタバコを投げつけてきた。



「無視しないでよ」


「いってぇ・・・・」


俺は体を起こすと

いつも俺にするように、俺の腕を思いっきりつかみ


何度も、何度も華奢な手で叩いてきた。



女性の力ではそんなに痛くはないけれど

さすがに今日は痛い、やり過ぎだろうと思い

嫁の顔を見つめ言った。



「やめろ、やめろって」


そう止めると彼女は

「この腕で、他の女を抱きしめて来たんでしょう・・・


この腕があるからいけないのよ!!」



すると彼女は突然台所へ向かい

包丁を手に取り、俺に突きつけてきた。

しっかりと包丁を握り締め
涙を流す彼女の姿には


さすがに驚かされる。




「やめろ・・・ホント、やめろって・・・・」




「じゃあ、どうして浮気なんかしたのよ・・・もう我慢の限界よ

許さない・・・・許さない・・・・・」




ああ、
何を言っているんだ、この女は。



俺は嫁の持っている包丁を力ずくで奪ったのだが

彼女は納得がいかない表情を浮かべ、暴れ
リビングにあったコップや皿、灰皿を
投げつけ始める。


床に散らばったコップや灰皿は無残にも
投げられた勢いで割れてしまっていた。



「この悪魔!人でなし!!!」


彼女はそう、叫んだ。


悪魔 人でなしときたもんだ。




「腕が・・・・その腕があるから


汚らわしい・・・・!!許さない、もう私も限界よ


腕なんか切り落としてやる・・・・!!」



憎しみの篭った声を
俺に浴びせる嫁は

いつも異常にヒステリックに叫んでいた。




マタニティーブルーってやつかもしれない。








彼女自身、すごくヒステリックになりやすく

思い込みの激しい女だった。












俺は大学のとき先輩が立ち上げた会社に入社し

順風満帆な生活を送っていたのだが

この不況で会社は倒産、俺は絶望の淵に立たされていた。



そんな中、知人の紹介で知り合った女が


今の嫁だ。


最初は大人しく、上品で、更に気の利く女性で
俺が落ち込んでいるときは何度も助けられた。


そんな中、彼女は俺に「妊娠した」と告げた。


しかし俺と彼女には性的関係もなく

俺の子供ではないと確信はあったのだが

彼女は俺の子だと言い張った。




付き合ってもいない中で、強引に結婚を迫られ

今に至る。




なので彼女が、思い込みの激しくヒステリックで

異常な女とはわかっていたからこそ

助けてあげようと思った俺は

とあるスナックのボーイとしてアルバイトを始めた。






しかし、なぜか彼女は俺が他の女と浮気しているものだと

思い込んでしまっていたのだ。





彼女と知り合って3年が経つが

たまに彼女が何を考えているのか分からなくなるときがある。



もちろん
今回の子供の件も、俺の子でない上に

障害があるときたもんで


俺にはどうしていいか分からなかった。







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